思い出の部屋をでるときに去来する

鍵をかけた時に

業者さんに引っ越し作業をお願いしたのは先月のこと。二つ隣の町へ引越す私は今までの住まいに別れを惜しんでいます。嫌いではなかった、いやむしろ好きな住まいだったと記憶している。そこで繰り広げられた様々な事柄は私の心に焼き付いて離れません。だから引越すのです。まとわりつくような追憶を振り切るように決断した引越しは、新たな未来と過去へのさよならを同時に齎すものです。そして私は未来を取りました。あそこにいたらいつまでも思い出と付きあっていかなくてはならないからです。荷物を業者さんが運びだし走り去った後、玄関のカギをかける私はその軋んだ音に今までが凝縮されていると感じたのです。

新居では快適な暮らしが

お任せプラン、というのでしょうね。とにかくあの場所を離れたかった一心で決断したから、事前準備もままならなかったので。いつもどこかでこうやって作業しているとは知りながら、あまりにも快活で手際よい作業を眺めていた私は、場所を移った思いの中にこの先何かを見出せる気がしてきたのです。設置された最小限の家具にもたれかかって考えた日々は、もう過去の幻影のように私にまとわりつくこともありません。その間引越し御徒町は淡々と進められていきました。踏ん切りがついたとたん、ほとんど引越しを手伝っていなかった私を顧みたのです。何もかも他人任せで終わった引越し。そして何もかも自分勝手で終わった恋。でもいいじゃない、人生だもの。